「リセット」
少し前のニュースになりますが、カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の「万引き家族」が、最高賞であるパルムドールを受賞したと紹介されました。 日本人の監督としては、21年振りの快挙との事でした。
それを受けて、ある番組で是枝監督の特集が組まれていました。
監督の独特な作風として、事前に子役に台本を渡さず、敢えて台本を読み込む事をさせずに素に近い表情を撮るようにしている、と紹介されていました。
以前はドキュメンタリーを主に制作されており、その経験を活かされているようでした。
そんな事を聞いて作品に興味を持ち、個人的にはまだ是枝監督の映画を拝見した事が無かったものですから、2013年の作品「そして父になる」を差し当たり観てみました。
話の大筋は、出産時の病院側の手違いで子供の取り違えが起き、それを子供が小学校に入学する頃にいきなり聞かされた2つの家庭が、その後どうしていくのか?を描いた人間ドラマでした。
2つの家庭は対照的に描かれ、
1つの家庭は、父親が勝ち組のエリート仕事人間、奥さんは専業主婦。都会のタワーマンションの高層階に住み、子供は一人っ子の男の子。お受験のある名門小学校に入学し、習い事はピアノ。
もう1つの家庭は、ど田舎のボロい電気屋。
両親は夫婦共働きで、粗野でありながらも、人情味に溢れ、地域の人達との繋がりも強い。子供は3人兄弟の長男。小さな弟、妹を可愛がっている。
物語の中盤では、お互いの子供を交換し、それぞれの家庭で実の子供との生活か始まります。
そこで描かれていたテーマは「目線」だったように思います。
エリートである父親は「血が繋がっていれば何とかなる」、という大人目線の考え。子供を強引に従わせようとしますが、子供の目線はそこには存在しません。 子供は「何で?」と質問をし続け、お互いの距離はなかなか縮まりません。
一方で粗野な電気屋は「一緒に過ごす時間」を大切にします。
一緒にお風呂に入ったり、凧揚げをしてあげたり、壊れたおもちゃを修理してあげたり、夕飯の大皿に乗ったオカズをみんなでつつき合ったりして、子供の目線に大人の目線を合わせていきます。
そうすると、最初は少し距離を置いていた子供も、自然に段々と打ち解けていくのでした。
物語の終盤では、社会的には成功し仕事中心に生きてきた男が、自分の無力さを痛いほど知り、家族と向き合う事を真剣に考えさせられて、子供の目線に自分の目線を合わせて、もう一度やり直そうとします。
そうすると、頑なだった子供の気持ちもほどけるように変わっていくのでした。
最終的に2つの家庭がどんな答えを出したかまでは、明確に描かれませんでしたが、希望を感じさせる明るいエンディングでした。
人生はゲームと違い、リセットややり直しは出来ない。過ぎてしまった時間はもう戻せない。
でも未来を変える事は出来る。
人と人は目線を合わせて真剣に向き合えば、通じ合う事が出来る。
そんな事を、この作品で監督は言いたかったのかな、と個人的には思いました。
廣戸道場では、「身体の歪み」に対して、正しく立ち、身体と頭を通わせる事によってリセットをかけますが、「心のすれ違いという歪み」に対しても、
お互いの目線を合わせて、向き合って立ち、お互いの心を通わせるように努める事が大切だと、改めて感じさせられる出来事でした。
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